「無農薬で体に優しい野菜を育ててみたいけれど、虫だらけになるし、毎日の手入れや肥料選びも難しそう……」
そう思って、家庭菜園に踏み出せない方は多いのではないでしょうか。あるいは、実際に始めてみたものの、病気や虫との戦いに疲れてしまったという方もいらっしゃるかもしれません。私もかつてはそうでした。
あれこれ手をかけ、肥料を足し、虫を退治する。そんな「足し算」の家庭菜園に少し疲れてしまった方に、ぜひ知っていただきたい素晴らしい方法があります。
それが、わが家が数年前から自宅の小さなスペースで実践している「菌ちゃん農法(吉田俊道さんが提唱されている有機質自然農法)」です。
この農法、なんと肥料も農薬も一切使いません。 それなのに、不思議なほど虫がつかず、野菜本来の濃い旨みと高い栄養価をもった元気な野菜が育つのです。
今回は、人間が力技でコントロールするのを手放し、土の中の「目に見えないいのち」を信じて待つ、大らかで豊かなわが家の畑仕事の世界をご紹介します。
1. なぜ肥料も農薬もいらないの?「菌ちゃん農法」の魔法のような仕組み
「肥料をあげないなら、野菜は何を食べて育つの?」
「農薬を使わないなんて、虫のパラダイスになってしまうのでは?」
初めてこの農法を耳にしたとき、私も疑問でいっぱいでした。しかし、その仕組みを知ったとき、今までの「常識」がガラガラと音を立ててひっくり返るような衝撃を受けたのです。
◆ 足し算の農業から、引き算の農業へ
一般的な現代の農業や家庭菜園では、人間が「野菜の栄養」として化学肥料や有機肥料を土に足します。しかし、菌ちゃん農法で活躍するのは人間ではなく、土の中に住む「糸状菌(しじょうきん)」という目に見えない菌ちゃんたちです。
糸状菌は、森の中で落ち葉や枯れ木を分解して豊かな土を作っている立役者。この菌ちゃんたちが大好きな環境を畑に作ってあげると、彼らは爆発的に増え、野菜の根っことガッチリ手を結びます。そして、人間が外から肥料を足さなくても、菌ちゃんたちが自然界の循環の中から、野菜に必要な栄養をベストなタイミングで届けてくれるようになるのです。
◆ 虫がつかない、本当の理由
「無農薬=虫がつくから大変」というのは、実は人間が肥料をたくさん足した土での話です。 窒素肥料などでブクブクとメタボ気味に太らせた野菜は、虫にとっての「ごちそう」になってしまいます。だから虫が寄ってきて、それを防ぐために農薬が必要になるという悪循環が生まれます。
一方で、菌ちゃんから必要な分だけ栄養をもらい、自分の力で大地に根を張った野菜は、生命力に溢れています。人間でいう「免疫力がめちゃくちゃ高い状態」です。この健康そのものの野菜は、虫にとっては逆に「硬くて消化できないセメントのようなもの」になり、不思議なほど虫が寄り付かなくなります。つまり、健康に育てば、最初から農薬なんて必要ない(引き算できる)のです。
◆ 「無肥料=栄養が薄い」は大間違い!
肥料を与えないと聞くと、ひょろひょろの栄養のない野菜になりそうですが、正逆です。 菌のネットワークは、人間の手では届かない地球の底から、豊かなミネラルをグングン吸い上げて野菜に送ってくれます。その結果、野菜自身の「抗酸化力(病気やストレスに勝つ力)」が跳ね上がり、スーパーの野菜を凌駕するほど栄養価が高く、えぐみのない、野菜本来のガツンと濃い味がするようになります。

2. 「これならできそう!」菌ちゃん農法の基本4ステップ
「そんなにすごい畑、作るのが難しいんじゃない?」と思われるかもしれませんが、基本のステップは驚くほどシンプルで、どこか絵本をめくるようなワクワク感があります。ここでは、その大まかな流れを軽やかにご紹介します。
① 菌ちゃんのごちそう(有機物)を集める
まずは土の中に仕込む、菌ちゃんの大好物を集めます。それは、普通の家庭菜園なら「ゴミ」として捨ててしまうような硬いもの。
- 枯れ葉、落ち葉
- 山の丸太や小枝、竹
- 雑草(セイタカアワダチソウやススキ)
「えっ、こんなものが本当に野菜の栄養になるの?」と思うような、一見硬くて栄養のなさそうなものこそ、糸状菌たちの大好物(ごちそう)なのです。
② お布団(畝・うね)を作って、マルチを被せる
高くて大きなお布団(畝)を作ったら、集めたごちそうを土の上に乗せて少しだけ土をかけます。 形を整えたら、上から黒いビニールシート(マルチ)をピッチリと被せます。これは、中に雨水が入りすぎて菌ちゃんが溺れてしまうのを防ぎ、適度な温度と湿度を保つための大切な屋根になります。

③ 「信じて待つ」だけの数ヶ月
シートを被せたら、石などの重しを乗せあとは数ヶ月間、ただじっくりと待ちます。時間が経つと、土の中の温度が上がり、仕込んだ小枝や枯れ葉に「糸状菌(白いカビのような、愛おしい菌ちゃんたち)」がビッシリと広がっていきます。 焦ってすぐに植えるのではなく、土の中の準備が整うのを大らかに信じて待つ。この「待つ時間」こそが、のちに爆発的な成長を生み出すタネまきになります。
④ 苗を植えたら、あとは見守るだけ
土の中に菌ちゃんのネットワークが完成したら、いよいよビニールに小さな穴を開けて、野菜の苗を植えます。ここから先は、水やりもほとんど自然の雨におまかせ。人間が必死に背中を押さなくても、野菜は菌ちゃんと手をつなぎ、自ら驚くようなスピードで境界線を越えて大きくなっていきます。

3. 数年続けて実感している、わが家の「知食住」の変化
この菌ちゃん農法を始めて数年。わが家のミニ畑と食卓には、想像以上の心地いい変化がいくつも起きています。
実は以前、私が参加した講座のコミュニティサイトに、体験者の声として私の感想を掲載していただいたことがあります。そこには、私が数年間でリアルに体感した「本音」をこんな風に綴りました。
- 追肥のタイミングや量に悩まなくていいのが本当に楽チン
- 一度畝(うね)を作りさえすれば、再度耕す必要もないので無理なく続けられる
- 難しい用語やあらかじめ知っていなければいけない知識は一切なく、知識&畑経験ゼロからでもスタートできた
- 元気な野菜に虫は来ないというのは本当だった!
- 菌ちゃんを通じて地球環境にも貢献できていることに喜びを感じる

一般的な家庭菜園だと、「いつ肥料を足せばいいの?」「水のやりすぎで根腐れしちゃった…」と悩みが尽きませんよね。でも、菌ちゃん農法は最初の環境調整(お布団づくり)さえしっかりやれば、あとは菌ちゃんにおまかせ。
毎日バタバタと忙しくても、人間が余計なコントロールを「引き算」しているからこそ、手がかからず、失敗もしないのです。おかげで、サッパリ育て方がわからないような野菜でも、毎日のように元気な実を実らせてくれています。
自分の手で育てたエネルギー満ち溢れる野菜を収穫し、そのまま食卓に並べるシンプルで贅沢なごちそう。最近では、食べきれないお野菜をご近所さんや友人におすそわけして喜ばれる、そんな温かい循環も生まれました。

わが子が泥に触れ、落ち葉や雑草を集めて菌ちゃんのごちそうを作り、「目に見えない土の中のいのち」がつながって目の前のトマトやキュウリになっていることを五感で学ぶ――。お勉強や習い事では得られない、生きる力の根っこが、地球とつながるこの小さな畑で育っているのを実感する日々です。
4. おわりに:自然の循環に身をまかせる心地よさ
「あれこれ手をかけなきゃ」「早く大きくしなきゃ」という人間のコントロールを手放すと、自然は想像以上のエネルギーと恵みを、大らかな優しさで返してくれます。
子どもの成長を信じて見守るように、土の中の菌ちゃんの力を信じて待つ。 そんな「引き算の心地よさ」を、私はこの菌ちゃん農法から教えてもらいました。
大きな畑がなくても、お庭の小さな一角や、プランターからでも始めることができます。 あなたもぜひ、土の中の小さな菌ちゃんたちとの、豊かで大らかな対話を始めてみませんか?

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